きっぷ鉄から見れば夢の光景!近永駅にはこれだけの種類が揃う |
人との交流を大切にしている竹本精作さん |
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全国の鉄道ファンから予土線に近 永駅ありと言わしめる近永駅だが、鉄道ファンの中でもきっぷ(切符)に 強いこだわりを持つ「きっぷ鉄」にとって聖地といえる。なぜなら、近永駅 には券売機とはひと味違うきっぷ、いわゆる「常備券」や「補充券」など軟 券、が販売されているのだ。きっぷの対面販売が劇的に減少する世知辛い昨今、 近永駅にはきっぷをめぐるドラマがあった。
ある日の夕方、学校から、ちょっぴり早く帰ってきた甥っこが「予土線に 乗ってお出かけしようや」と誘ってきた。ちょくちょく近距離乗車をしてプチ鉄道旅を楽しんでいる私たちは、ダイヤを確認して近永駅から伊予宮野下駅まで往復することにした。近永駅は簡易委託駅といって、JR四国からきっぷの販売を委託されており、窓口に1人の男性がいる。
「すみません、きっぷを買いたいんですが」と声をかけると「どちらまで?」と優しい返事。行き先を告げると「往復? これでいい ? 」と薄い緑色の一枚の紙を取り出してくれた。私のスマホほどの大きさの見慣れないきっぷには、『近永▶伊予宮野下、大人1人、小児1人』と1枚のきっぷに2人分の情報が書き込まれてある。ははん、これが常備券とか補充券というやつだな、なるほど薄い紙だ。行き先などの情報を聞き取って丁寧に書き込んでいる。「往復」の部分に「〇」なんだかレ卜口な感じでいいなと思わずニヤリ。その様子をみて、窓口の男性が「おたくもきっぷマニアなの ?(マニアというほどではないが、きっぷは、とっておく方だ)この駅はね、こんなきっぷを販売しよるけん、全国からきっぷマニアがようけ来るのよ」とニコニコ。聞けば、全国どこのきっぷでも購入できるということで、全国各地からやってくる人が絶えず、たった1日で2,3万円を売り上げることもあるとか。
男性は、元国鉄マンの竹本精作さん(71歳)。聞けば、同級生のお父さんで懐かしさで話が弾む。私も高校時代、竹本さんのお嬢さんと予土線で、この駅から宇和島へ通っていたのだ。竹本さんは、こうして駅を訪れてきっぷを買いに来た人たちとおしゃべりをするのが楽しいという。「どっから来たの?と聞くと『福岡から来たんです』それに「うちも親戚が福岡に居るんよー」と答えたり、以外とその土地とご縁があったりして会話を楽しむんよ。中には、何回も来る子もおって、「おじさん久しぶり、これお土産」なんて、すっかり仲良くなってしもうたり、きっぷ1枚やけど、なんかご縁ができて、楽しいんよ」と笑顔で話してくれた。
近永駅では、全国のJRであれば、どこの区間でも作って販売してくれるという。もちろん近永駅で販売しているため、近永駅発着のきっぷだと、ありがたいというが、元国鉄マンだけあって全国の線路が頭に入っているようだ。竹本さんは現役時代、18回も転勤したそうだが、車掌をしていた頃に江川崎から予土線がつながり、駅長として就任した八幡浜駅には竹本さんが植えたミカンの木が今も身をつけている。長く鉄道と関わってきた竹本さんは、定年後もこうしてきっぷを販売しながら鉄道を利用する人々を温かく迎えている。
すると、そこへ片言の日本語を話す外国人の女性が窓口にやってきた。「宮野下マデ3人、キップ、クダサイ」竹本さんは「今日は休み?いい買い物できた?と優しく声をかけた。
すると女性は「ハイ、デキマシタ。アリガトウゴザイマス」と答える。伊予宮野下駅の近くで働いているインドネシア人の女性たちで、休みになると、予土線を利用して買い物にやってきるのだという。竹本さんとは、すっかり顔なじみのようだ手には、いっぱいの食料品。どんな料理をつくるのかな・・・。
無人駅の多い予土線の中にあって、ちょっとしたやりとりに心がはっこりした。きっと、見知らぬ外国の土地で働く彼女たちにとって、ここで、きっぷを買うことの安心感のようなものがあるのかもしれない。彼女たちは、笑顔できっぷを手に列車に乗り込んでいった。
私たちも彼女たちと同じように竹本さんにあいさつをして列車に乗り込ん だ。甥っこは、ぐんぐん流れていく車窓を眺めている。普段は車で走る場所 も、列車からの眺めはひと味違う。田んぼやヤギも列車の窓越しに見ると
ちよっとだけ非日常で特別な感がする。 |
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きっぷ作りに欠かせないスタンプも健在だ |
丁寧に手書きし、きっぷに命を吹き込んでいく |
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※宇和島信用金庫発行 つぐない春号2022No.18 より転載 |
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